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アマプロ株式会社代表 林正愛が日々感じていることをつづります


by りんちゃん
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『世界の経営学者はいま何を考えているのか』

シンガポールの報告をと思いつつ、ある本が印象に残ったので、それについ
てご紹介します。
世界の経営学者はいま何を考えているのか』という書籍を読みました。
『世界の経営学者はいま何を考えているのか』_e0123104_7142280.jpg

大学院で石倉洋子先生の「変化の時代の事業戦略論」という授業をとって
おり、参考図書になっています。
経営学はかなり若い学問で、発展途上である。一方で、日本で考えられて
いるのとは異なる研究がされていて、とても参考になりました。
気になったことをご紹介します。

○経営学の本としてピーター・ドラッカーの著作を普段から読んでいる教授は
いない。「名言であっても、科学ではない」
科学とは「世の中の真理を探究すること」。可能な限り頑健な理論を構築し、
それを信頼できるデータと手法でテストすることが何よりも重要。

○ハーバード・ビジネス・レビューは学術詩ではない。経営学者が研究して
きた蓄積を、現実に応用しやすいようにわかりやすく組み直した「意思決定
・企業分析のためのツール」が紹介されている。研究を積み重ねてきた経営
学者と、実社会で活躍するみなさんの接点の場。

○世界の経営学は科学を目指しているが、その科学性はまだまだ薄弱なもの。
つきつめていえば人間・あるいは人間の集団の意思決定を分析することであり、
人間ほど複雑怪奇なものはない。主役は人間。まだまだ未熟な学問分野で
発展途上。

○経営学の2つのステップは理論分析と実証分析。理論分析とは「なぜそうなる
のか」という原理を理論的に説明すること。理論分析を通じてこれが経営の心理
法則かもしれない「(理論)仮説」を導き出す。「理論分析から導かれた仮説が、
世の多くの企業に一般的にあてはまるのか」をテストする必要があり、それが
実証分析。
欧米では「理論仮説を立て、それを統計的な手法で検証する」アプローチ(演繹
的アプローチ)一方で、日本では一社か数社を選んでそれを丹念に観察する
ケース・スタデーを通して得られた定性的情報から経営の法則や含意を引き出
そうとするアプローチ(帰納的アプローチ)をとる。

○経営学の三大流派
①経済学ディシプリン
マイケル・ポーターなど、経済学の中の産業組織論や組織の経済学といわれる
分野に基礎をおく
②認知心理学ディシプリン
古典的経済学が想定するほど人や組織は情報を処理する能力がなく、それが
組織の行動にも影響している。始祖は1978年にノーベル経済学賞を取った
ハーバード・サイモン。イノベーションの経営の分析に役立っている。
③社会学ディシプリン
アメリカは社会学が進んでいて、人と人、組織と組織が「社会的に」相互作用
するかという研究がされており、それに基づいている。

○企業についての4つの視点
「効率性」「パワー(力)」「経営資源」「従業員のアイデンティティ」を重視する。
上記の流派によって重視するディシプリンが異なる。

○ポーターの競争戦略論はライバルとの競争を避けるための戦略、守りの
戦略。アメリカで「持続的な競争優位」を実現する企業はたしかに存在するが、
その数はすべてのうちの2〜5%にすぎず、それを実現するのはどんどんむずかしく
なっている。一時的な優位をくさりのようにつないで、結果として長期的に
高い業績を得ているように見えている。今はハイパー・コンピティションの状況で、
競争行動が有効になり、業界の中でユニークなポジショニングをとり「攻めの姿勢
を取りやすくすること」がますます重要になっている。

○組織の記憶力で大切なことは、組織全体が何を考えているかではなく、組織の各
メンバーが他メンバーの「誰が何か」を知っておくことであり、これをトランザク
ティブ・メモリーと言う。これはグループのパフォーマンスにプラスの影響をもた
らし、中でも「専門性」と「正確性」が重要。組織メンバーそれぞれが専門性を
深めていること相手が何を知っているかを正しく把握していることが重要。

○イノベーションに求められるのは「両効きの経営」。イノベーションを起こす
一つの方法は、すでに存在している知と知を組み合わせること。そのためには、
組織の知が多様性に富み、ほどほどに幅広いものがいい。
知を広げる行動をエクスプロレーション(Exploration)―知の探索、すでに持っ
ている知識や同質の知に改良を重ね、それらを深めて活用する行動をエクス
プロイテーション(Exploitation)―知の深化。
組織は知の深化に傾斜しがちだが、知の探索をなおざりにしやすい。事業が
成功している企業ほどこの傾向が強く、これをコンピテンシー・トラップと
いうイノベーションで重要なことは、両手を起用に使いこなせるように、
知の探索と知の深化の両方をバランス良く実現することが大切。

○3つのソーシャル
1 ソーシャル・キャピタル
2 関係性のソーシャル・ネットワーク
3 構造的なソーシャル・ネットワーク
ソーシャル・キャピタルとは「人と人が関わり合うことで生まれる便益」、
つまり人と人が関係性を持つことそのものが資本になりうる。
関係性のソーシャル・ネットワークでは、実や弱い結びつきのネットワー
クのほうが、強い結びつきのネットワークよりも情報伝達が効率的である。
コネを利用した就職は弱い結びつきのほうが役に立った。情報が効率的に
入ってきたから。一つのテーマについて深く情報を得ようとするならば、
強い結びつきが効果的であり、逆に多様な情報を効率的に集めたいときは
弱い結びつきのほうが効果的である。
構造的なソーシャル・ネットワークでは、ネットワーク全体の構造に着目。
有益なネットワークを持っている人が強さを発揮する。商社や卸問屋はこ
れを活用したビジネス。

○日本は集団主義と言われるが、データによると、韓国や中国、インドネシア
に比べると、個人主義の傾向が強い。グループ内の結束が強すぎると、それ
だけグループの外の人たちとの協力関係を築くのが心理的に困難になる
可能性がある。

○起業家が集まるのはなぜか。彼らが求めているのは事業の成功のために
必要な知識と情報。インターネットで情報は入るが、ビジネスに必要な深い
知識やインフォーマルな情報は、インターネットソースではなく、人と人との
直接のコミュニケーションでしか伝わらない部分も多く、そのインフォーマル
な情報を求めて、一定の地域に集積する傾向がある。

かなり長くなってきてしまいました。また羅列でごめんなさい。
実はこのほかにも気になることがあるのですが、かなり長いのでこれくらいに。
今経営学の分野でどんなことが話題になっているのかをわかるとともに、
それが現場のビジネスとかなり連動していて、今後のビジネスを考える
上でもとても参考になると感じました。

よかったら、手に取ってみてください。
by jungae | 2013-01-17 07:21 |